吹\F句

June 2662013

 百丁の冷奴くう裸かな

                           矢吹申彦

書に「大相撲巡業」とある。俳句だけ読むと「お、何事ぞ!」と思うけれど、大相撲か、ナルホドである。夏のどこかの巡業地で出遭った実際の光景かもしれない。相撲取りの食欲とはいえ、「百丁」はオーバーな感じがしないこともないけれど、一つの部屋ではなく巡業の一行が一緒に昼食をとっているのだろう。二十人いるとしても一人で五丁食べるなら、「百丁」はあながちオーバーとは言えない。大きなお相撲さんたちがそろって、裸で汗を流しながらたくさんの冷奴を食べている。豪儀な光景ではないか。ユーモラスでもある。稽古でほてった裸と冷奴の取り合わせが鮮やかである。「百丁の冷奴」を受けた相撲取りたちの「くう裸かな」が、無造作に見えて大胆でおおらかである。申彦はよく知られたイラストレーターだが、俳句は三十歳をむかえる頃から始めたというから、今や大ベテラン。「詩心のない者は俳句を遊べても、俳句に遊べない」と述懐している。「遊べても……遊べない」そのあたりがむずかしい。俳句関連著書に『子供歳時記ー愉快な情景』がある。俳号は「申」から「猿人」。他に「想うこと昨日に残して鯵たたく」がある。「俳句αあるふぁ」(1994 年夏号)所載。(八木忠栄)




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